ベクトル空間。高校・大学で線形代数を勉強したことはあるけど、私はすっかり忘れていました。概念が抽象的で同じように忘れている人も多いのではないでしょうか。
- ベクトル空間とは何か
- 何を満たすとベクトル空間と呼べるか
ベクトル空間の定義
数学、物理、工学において、2つの性質(1.ベクトルの加法、2.スカラー乗法)と8つの公理が成立するベクトルの集合をベクトル空間(または線形空間)と呼びます。
ある集合を\(V\)とおきます。集合\(V\)をベクトル空間と呼ぶためには、集合\(V\)が以下の2つの性質と後述する8つの公理を満たし、閉じている必要があります。
- ベクトルの加法: \(\mathbf{w}, \mathbf{v} \in V\)のとき、\(\mathbf{v}+\mathbf{w} \in V\)
- スカラー乗法: \(\mathbf{v} \in V\)、\(\alpha\)がスカラーであるとき、\(\alpha \mathbf{v} \in V\)
ベクトル空間は「2つの性質と後述の8つの公理を満たす集合」です。
「集合が閉じている」ってどういう意味ですか?
集合\(V\)に含まれるベクトルを演算(加法と乗法)した結果が、同じ集合\(V\)に属している状態を意味します。数学的にこの性質は「閉性」と呼ばれています。
例えると「同質の人たちだけが集まり、生まれ、異質は認めないコミュニティ」みたいなイメージでしょうか。
集合\(V\)がベクトル空間と呼べない一例を示しておきます。
\(\boldsymbol{a}=\begin{bmatrix}a_1 \\
2
\end{bmatrix} \quad \boldsymbol{b}=\begin{bmatrix}b_1 \\
2
\end{bmatrix} \quad\ \boldsymbol{a,b} \in V \)とおき、ベクトルの加法を考えます。
このとき、\(\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b}=\begin{bmatrix}a_1+ b_1 \\
4
\end{bmatrix}\)から、\(\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b} \notin V\)です。
\(\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b}\)の結果から、集合\(V\)は閉じていません。したがって、この集合\(V\)は、ベクトル集合ではないと言えます。
ベクトル空間の公理
ここでは、ベクトル空間の8つの公理をまとめます。
ベクトル加法、スカラー乗法、2つの性質を備えた空でない集合を\(V\)とおきます。集合\(V\)はベクトル空間とします。
一方、\(V\)に含まれる任意のベクトルを\(\boldsymbol{u, v, w}\)、任意のスカラーを\(\alpha\)とおきます。このとき、ベクトル空間は以下の8つの公理が成り立ちます。
- 加法の交換則: \(\boldsymbol{u}+\boldsymbol{v}=\boldsymbol{v}+\boldsymbol{u}\)
- 加法の結合則: \((\boldsymbol{u}+\boldsymbol{v})+\boldsymbol{w} = \boldsymbol{u}+(\boldsymbol{v}+\boldsymbol{w})\)
- 加法単位元の存在: \(\boldsymbol{u}+0=\boldsymbol{u}\)
- 加法逆元の存在: \(\boldsymbol{x}+(\boldsymbol{-x})=0\)
- スカラー乗法と加法の分配律: \(\alpha(\boldsymbol{u}+\boldsymbol{v})=\alpha\boldsymbol{u}+\alpha \boldsymbol{v}\)
- スカラー乗法と体(係数)の加法の分配律: \((\alpha+\beta)\boldsymbol{u}=\alpha\boldsymbol{u}+\beta \boldsymbol{u}\)
- スカラー乗法の結合則: \(\alpha(\beta\boldsymbol{u})=(\alpha\beta)\boldsymbol{u}\)
- 単位元1の存在: \(1\boldsymbol{u}=\boldsymbol{u}\)
スカラーの種類によって、ベクトル空間は、実線形空間、複素線形空間、とも呼び分けられます。
公理自体は難しいことは言っていません。個人的には概念を理解できれば十分で、公理の名称まで暗記する必要はないと思っています。
最後に、視覚的な理解の補助として、3Blue1Brownから配信されている「ベクトル空間の抽象化」をオススメします。
まとめ
この記事の内容をまとめます。
- ベクトル空間はベクトル加法、スカラー乗法の2つの性質と8つの公理のもとに閉じている集合
- ベクトル空間は線形空間とも呼ばれる
- ベクトル空間はスカラーの種類によって、実線形空間、複素線形空間に分類できる
この記事は以上です。最後まで読んで頂きありがとうございました。
参考資料
(2) Wikipedia, “Vector Space” (12/31/2021アクセス)
この記事は、復習のため、最低限知っておきたい「ベクトル空間」をまとめます。